犬用ハーネスOEMの設計 — JIS規格の強度基準と設計の勘所

ハーネス(胴輪)は2020年のJIS S 9100改正で規格の対象になりました。体重区分ごとに定められた引張強度、破断が起きる接合部の設計、そして「肩に優しいY字型」という通説を覆した2019年の研究まで、ペットブランドがハーネスをOEMで企画する際に最初に押さえるべき要点を実際の基準値をもとに整理します。

犬用ハーネスOEMの設計 — JIS規格の強度基準と設計の勘所

ペット用品の売り場を見ると、この数年でハーネス(胴輪)の比率が明らかに増えました。首への負担を避けたい飼い主が増え、獣医師も気管が弱い犬にはハーネスをすすめます。ブランドとして新しく企画するなら、いま最も引き合いが強いカテゴリーのひとつです。

ただし、つくり手の側から見るとハーネスは首輪より難易度が高い製品です。体を立体的に囲うため寸法が合わせにくく、荷重のかかり方も複雑で、しかも2020年からは日本工業規格(JIS)の対象になりました。本記事では、ハーネスをOEMで企画するときに最初に押さえるべき規格・強度・設計上の勘所を、実際の基準値と研究データをもとに整理します。

2020年、ハーネスはJISの対象になった

意外に知られていませんが、飼い犬用のハーネスには日本工業規格があります。JIS S 9100「飼い犬用引きひも(紐),首輪及び胴輪-強度及び表示」です。

もともとこの規格は引きひも(リード)だけを対象にしていましたが、2020年の改正で首輪と胴輪(ハーネス)が追加されました。つまり、ハーネスが規格の対象になってからまだ数年しか経っておらず、市場には規格を意識せずに作られた製品も少なくありません。裏を返せば、ここを押さえるだけで差別化できるということです。

項目内容
規格番号JIS S 9100
対象散歩時に使う引きひも・胴輪/散歩時および係留時に使う首輪
適用範囲体重40kgまでの飼い犬1頭に使用するもの
対象外伸縮式(フレキシブル)の引きひも、引きひもと一体になった胴輪
規定内容引張強度および表示

注意したいのは「一体型は対象外」という点です。リードと胴輪が一体になったデザインは規格の枠外になるため、企画段階で「JIS準拠」を打ち出すつもりなら、分離型で設計する必要があります。

求められる引張強度は「体重区分」で決まる

JIS S 9100が定める引張強度は、対象となる犬の体重によって段階的に決められています。

体重区分散歩用(引きひも・胴輪・首輪)係留用の首輪
10kg以下300N以上500N以上
20kg以下600N以上1,000N以上
30kg以下900N以上1,500N以上
40kg以下1,200N以上2,000N以上

1N(ニュートン)はおよそ102gの物体にかかる重力に相当します。40kg級で求められる1,200Nは、ざっくり122kg分の力に耐えるということです。犬が突然走り出したときの瞬間的な力を考えれば、決して過剰な数字ではありません。

試験方法も定められています。調整箇所を最大まで伸ばした状態で固定し、毎分150mm(±10mm)の速度で破断するまで引っ張り、そのときの最大荷重を測ります。試料は3本で、いちばん低い値をその製品の引張強度とします。

この試験条件には、設計上とても重要な示唆が含まれています。「最大まで伸ばした状態」で「3本のうち最低値」を採るということは、いちばん弱い状態・いちばん弱い個体で評価されるということです。

強度は「最も弱い一点」で決まる

ハーネスの強度は、革そのものの強さでは決まりません。破断するのはたいてい革の中央ではなく、力が集中する接合部です。

  • Dカン・リード金具:荷重が一点に集中する。金具単体の破断荷重が製品全体の上限になる
  • 金具を留めるステッチ:革が持っても糸が切れれば同じこと。糸の号数・針目・返し縫いの設計が効く
  • カシメ・リベット:打ち込みが浅いと荷重で抜ける。革の厚みと足の長さの相性が重要
  • バックル・調整穴:穴の縁から裂けやすい。ハトメ補強や穴間ピッチの検討が必要
  • 革の繊維方向:同じ革でも裁ち方向で伸びと強度が変わる。ベルト状の部材はとくに影響が大きい

つまりハーネスの強度設計とは、これらすべてを規格値以上に揃える作業です。どこか一箇所でも基準を下回れば、製品全体がその値になってしまいます。金具の選定や強度の考え方はペット用革製品の安全設計と強度で詳しく解説しています。

「体に優しい」は検証されているか

ハーネスの商品説明でよく見るのが「肩の動きを妨げないY字型」という表現です。しかし、この点については直感と食い違う研究結果があります。

英国王立獣医大学のLafuenteらは2019年、9頭の中〜大型犬にトレッドミルを歩かせ・速歩させ、ハーネスなし/拘束型(胸に水平ストラップが渡るタイプ)/非拘束型(Y字型)で肩関節の伸展角度を比較しました。結果は次のとおりです。

比較並足(ウォーク)速歩(トロット)
非拘束型は拘束型より肩の伸展が2.6°小さい4.4°小さい

つまり、「非拘束型」と呼ばれるY字型のほうが、肩の伸びをより強く制限していたのです。論文自身も「当初予想されたのとは異なる形で」と述べています。また、ハーネスなしと比べればどちらの型も有意に肩の伸展を減らしていました。

この研究は9頭・トレッドミル上・各型1製品ずつという小規模な条件です。「Y字型は体に悪い」と結論づけられるものではありません。読み取るべきは「型の名前ではなく、ストラップが実際にどこを通るかで決まる」ということです。

ブランドにとって実務的に重要なのは、ここから導かれる2点です。

  • 形の名前を根拠に効能をうたわない:「Y字型だから肩に優しい」という表現は、裏付けのない優良誤認と判断されるおそれがあります
  • 実物で確かめる:サンプル段階で実際に犬に装着し、歩様を撮影して確認する。カタログスペックより確実です

革でハーネスを作るときの固有の課題

ナイロンや化繊のハーネスと違い、革には革ならではの設計課題があります。

課題なぜ起きるか設計での対応
使ううちに伸びる革は繊維構造上、荷重方向に伸びる性質がある芯材を挟む/伸びにくい部位から裁つ/調整幅を広めに取る
体に沿わせにくいハーネスは首輪と違い立体的に体を囲う可動部を分割し、複数点で調整できる構造にする
汗と湿気に弱い胴まわりは接触面積が広く、蒸れやすい裏地にメッシュや布を合わせる/撥水加工を検討する
金具が増えるほど重くなる調整点が多いほど金具点数も増える小型犬向けは薄い革と軽量金具で総重量を抑える
個体差が大きい同じ体重でも胴回り・胸囲は犬種で大きく違う体重ではなく胸囲でサイズ展開を設計する

とくにサイズ展開を体重で切らないことは重要です。同じ8kgでもダックスフンドとフレンチブルドッグでは胴回りがまったく違います。犬種ごとの体格差については犬種別 革首輪・リードの選び方ガイドに整理しています。汗・湿気への対策は夏の犬の革首輪ケアもあわせてご覧ください。

表示のルールを外さない

強度と並んで見落とされやすいのが表示です。ペット用品には複数のルールが重なります。

  • JIS S 9100:強度とあわせて表示についても規定しています
  • ペット用品統一表示ガイドライン:日本ペット用品工業会の自主基準。原産国・原材料・使用方法・注意事項などの表示事項を定めており、適合すると統一表示適合品証を使えます
  • 景品表示法:実際より著しく優良と誤認させる表示は不当表示として禁止されます。前章の「肩に優しい」表現はここに関わります
  • 素材の呼称:革製品の「本革」表記には別途ルールがあります。詳しくは「本革」と書いてはいけないをご覧ください

表示は製品ができてから考えると、タグの作り直しや刷り直しが発生します。仕様を固める段階で決めておくのが結果的にいちばん安く済みます。

企画から量産までの進め方

ハーネスは首輪より部材点数が多く、サンプルでの検証項目も増えます。目安として次の流れになります。

  1. 対象犬種と体重区分を決める:ここでJISの要求強度が確定します
  2. 型と調整点を決める:Y字/H字、調整箇所をいくつ設けるか
  3. 革と金具を選ぶ:要求強度から逆算して厚み・金具グレードを決めます
  4. サンプルで実装着:実際の犬で装着感と歩様を確認します
  5. 強度を確認する:必要に応じて第三者機関で引張試験を行います
  6. 量産:サイズ展開ごとに型と仕様を確定します

アイライズ工房では、首輪・リード・ハーネスを10個からお受けしています。仕様の詳細と価格の目安はペット用品OEM、ブランド立ち上げからのご相談はペットブランド向けOEMをご覧ください。

まとめ

ハーネスは「首輪より優しい」というイメージだけで語られがちですが、実際には規格で強度が定められ、体への影響も研究で検証が進んでいる製品です。2020年にJISの対象となったことで、つくり手に求められる水準ははっきりしました。

体重区分に応じた引張強度を満たすこと。強度は最も弱い一点で決まると理解すること。そして「体に優しい」を型の名前ではなく実物で確かめること。この3つを押さえたハーネスは、それだけで市場のなかで十分に差別化できます。企画段階からのご相談をお待ちしています。

出典

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