EUDRから革製品が除外された — 2026年7月採択の決定と日本の革OEMへの影響

EU森林破壊防止規則(EUDR)は、革製品の欧州輸出における最大の懸念材料とされてきました。しかし2026年7月13日、欧州委員会は牛の皮・革をEUDRの対象範囲から除外する委任法令を採択しました。何が変わり、何が変わらないのか。日本の革製品OEMの立場から整理します。

EUDRから革製品が除外された — 2026年7月採択の決定と日本の革OEMへの影響

「EUDRへの対応はどうすればいいのか」——欧州向けの革製品を扱うブランドから、この2年ほど繰り返し寄せられてきた質問です。結論から言えば、2026年7月13日の欧州委員会の決定により、牛の皮・革はEUDRの規制対象から外れました[1]。ただし「だから何もしなくてよい」と読むのは早計です。本稿では確定した事実と、なお残る実務課題を切り分けます。

EUDRとは何か

EUDR(EU Deforestation Regulation/EU森林破壊防止規則)は、森林破壊に由来する産品のEU市場流通を禁じる規制です。対象は牛、カカオ、コーヒー、パーム油、ゴム、大豆、木材の7コモディティと、その派生製品と定められてきました[2]

この「牛の派生製品」に牛革が含まれていたため、革製品を欧州に出荷する事業者は、原皮の産地を地理座標レベルまで遡って証明するデューデリジェンス義務を負うと理解されていました。原皮が海外から流通経路を何段階も経て届く革産業にとって、これは極めて重い負担でした。

2026年7月13日 — 革が対象から除外された

欧州委員会は2026年7月13日、EUDRの附属書I(Annex I)を改正する委任法令を正式に採択しました[1]。この改正により、以下の6カテゴリーが対象範囲から削除されています。

  • 牛の皮・革(cattle hides, skins and leather)
  • 更生タイヤ
  • 播種用大豆
  • 加硫ゴム製品
  • コンベヤベルト・伝動ベルト
  • 航空機・自動車用シート

削除された品目については即時に対象外となります。一方で、同じ委任法令で可溶性コーヒー、一部のパーム油派生品、冷凍牛タンが新たに追加されましたが、こちらは事業者の準備期間を考慮して2027年12月30日からの適用です[1]

なお、この委任法令は欧州議会および理事会の審査(scrutiny)を経て発効します。制度上、審査期間中は最終確定ではない点には留意が必要です。

なぜ除外されたのか

欧州委員会は2026年5月4日、EUDRの簡素化に関する報告書と委任法令案を公表し、6月1日まで意見募集を行いました[3]。この一連の簡素化措置により、EUDR対象事業者の年間コンプライアンスコストは当初想定比で約75%削減されると見込まれています[3]

革が除外された背景には、革が食肉生産の副産物であり、革の需要が直接的に森林破壊を駆動するわけではない、という業界側の主張があります。ただしこの論点には強い異論も存在し、環境NGO等からは「欧州委員会は革と森林破壊の関連を認識していながら除外した」との批判が出ています。科学的・倫理的に決着した論点ではなく、政治的判断を含む決定であるという点は、公平を期すために記しておきます。

「除外=対応不要」ではない理由

規制上の義務が外れたことと、取引上の要求が消えることは別問題です。実務では以下が残ります。

  • ブランド側の自主基準 — 欧州の多くのアパレルブランドは、法規制とは独立にサプライチェーンのトレーサビリティ方針を持っています。EUDRが外れても、取引条件として原皮産地の開示を求められるケースは想定されます。
  • LWG認証などの業界スキーム — Leather Working Group等のタンナー認証は、EUDRとは別枠で機能し続けます。
  • 他のEU規制は残存 — REACH規則附属書XVIIによる六価クロム(Cr(VI))3mg/kg以下の制限など、化学物質規制は一切変わりません。こちらのほうが日本の革製品輸出では実務上の関門になります。
  • 審査期間中の不確実性 — 欧州議会・理事会の審査を経る前提のため、最終発効までは動向の確認が必要です。

EUDR本体の適用スケジュール

革以外の対象品目を扱う場合のために、適用時期も整理しておきます。EUDRの適用開始は繰り返し延期されており、現行スケジュールは以下の通りです[4]

  • 大企業・中規模企業 — 2026年12月30日から適用
  • 零細・小規模企業 — 2027年6月30日から適用(EU木材規則の対象外製品に限る)

日本の革製品OEMが今やるべきこと

過度な対応も、無対応も、どちらも合理的ではありません。現実的な優先順位は次のようになります。

  1. EUDR対応を理由にしたコスト上乗せは一度見直す — 革に関しては規制上の根拠が失われました。
  2. 優先度をREACH/Cr(VI)に振り直す — 欧州輸出で実際に止まるのはこちらです。化学物質試験レポートの整備が先決です。
  3. 原皮産地の記録は続ける — 法義務ではなくなっても、取引先の要求に即答できる状態は競争力になります。記録の粒度は落としてよいが、廃止はしない。
  4. 委任法令の発効を確認する — 欧州議会・理事会の審査完了までは、最終決定として社外に断言しない。

アイライズ工房の対応

アイライズ工房では、欧米向け輸出を想定する製品について、化学物質試験レポートの準備や、使用素材のトレーサビリティ情報の整理をサポートしています。規制動向は流動的なため、「最新の一次情報に当たったうえで、必要な対応だけを行う」という方針で伴走します。輸出を前提としたOEMをご検討の際は、企画の初期段階からご相談ください。

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